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更新日:2018/1/24

PIV計測基礎講座?

「PIV」は、Particle Image Velocimetryの略語です。つまり、流れ場にトレーサを注入して照明を当て、撮影します。得られた画像を解析して流体の挙動計測を行います。

トレーサ粒子について

もう少し厳密に言えば、得られた画像には、注入したトレーサ粒子の散乱光が写されており、PIVではこの粒子の挙動を観察することになります。したがって、『流れ場に対するトレーサ粒子の追随性が高いこと』が、この計測における最も基本的な前提条件になります。
また、粒子の大きさや密度(濃度)などについても、撮影条件や解析条件を考慮して十分に検討する必要があります。

【参考】トレーサ粒子の種類と選び方を教えてください。

照明のタイミングについて

次に大切な計測条件は照明です。どのような光を、どのようなタイミングで照射すべきか。
精度の良い計測を行うためには、一般にダブルパルスレーザ(Qスイッチレーザ)が使われます。シート状に加工した光(「シート光」などと呼ばれます)を暗室内で照射します。これにより、2次元断面の“一瞬”を撮影することができます。“一瞬”が、カメラの露光時間に依存していない点にご注意ください。
また、録画される画像1枚あたり、唯1回照射されるようにタイミングを調整します。これにより、時間的に連続する2枚の画像に写された「トレーサ粒子像の移動」を捉えることができます。連続する2枚の画像(前画像と後画像)をひと組(ペア)として移動量を推測します。このような照射の方法を『フレームまたぎ照明』と呼称します。また、2枚の画像における照射タイミングの差の時間を『ペア画像時間間隔(冲;デルタティ)』と呼びます。
フレームごとに唯1回行われる照射は、当該フレームの露光期間内のどこで行われても構わないので、冲はカメラのフレームレートには依存しないことにご注意ください。

照明の整形について

通常のレーザ光を、光シート(Laser Light Sheet)へ整形するには、ビームエクスパンダとシリンドリカルレンズが用いられます。下図は、光シート生成の模式図です。

直進性の高いレーザ光を用いたとしても、このようにして整形された光は、中心が薄く、両端が厚い。原理的に、完全な平行(平面)光にはなりません。したがって、PIV用の画像を撮影するために利用できる領域は、光が「シート状」であるとみなせる範囲に限られます。適正な厚さは、2成分PIVで1mm以内、ステレオPIVで2mm以内を目安にすると良いでしょう。

冲について

冲は、撮影領域内の流速によって適切な範囲が決まります。精度良く移動先を推定するためには、粒子像が画像上であまり大きな移動をしていないことが大切です。おおよそ、20画素程度が最大限界であると考えてください。実験者でない人がペア画像を切り替えて観たとき、粒子像の移動先が十分に判断できる程度に納めることが大切です。できれば、5〜10画素以内に納めたいところです。
冲は、次の簡単な計算式で求めることができます。

一方、粒子像の移動量が、0.5画素程度に満たない場合、そこでの移動先推定精度は下がります。解析ソフトウェア(FtrPIV)は、サブピクセルオーダーで移動先を推定しますが、移動量の絶対量に対して、推測に基づく(サブピクセル)量の比率が大きくなります。つまり、誤差率が上がります。
まとめると、上の式で、移動量の推定が、ある程度の精度で保証される P の範囲は、0.5 〜 10 であると考えることができます。

カメラについて

PIVにおけるカメラの選定は、要求される 冲 の短さと、フレームレートの大きさにより、ほぼ決定されます。
「フレームまたぎ照明」では、前画像の露光終了から後画像の露光開始までの期間(Inter Framing Time;IFT)により、冲 の最小値が決まってしまいます(上図参照)。したがって、IFTのことを “照明を入れられない時間” という意味で「デッドタイム」と呼んだりします。いわゆるPIV用のカメラは、通常の動画撮影用カメラと比べて、この時間が非常に短いのが特徴です。もしくは、短くするような撮影モード(通常「PIVモード」と呼ばれます)を持っています。現時点のカメラは、IFT=数μ秒程度のものが主流となっているようです。

Column最小冲へ挑戦?

実際のPIV計測の現場では、カメラメーカによるIFTの公称値(保証値)よりもさらに短い冲 が要求されることもあります。そのような場合には、2回の発光タイミングに、非常に繊細な調整を繰り返し、ダメモトで撮影を試みます。レンズをより明るいものに変更したり、光量を増やすなどして、カメラの真の実力を引き出すことができるかもしれません。

また、流体の経時変化をダイナミックに観察したければ、フレームレートを大きくする必要があります。高速度カメラの出番です。
このようなPIV計測は、一般に「Dynamic PIV」、「Time-resolved PIV」などと呼ばれ、膨大な画像とPIV結果を元に、周波数解析をはじめとする高度な数理統計処理が行われます。性能の良い高速度カメラの普及により “音の可視化” も現実的になってきています。
そして、カメラが高速になれば、レーザもまた「高繰返し」で「強力」なパルスレーザが必要になります。たいへん高価な設備となりますが、そこで得られる知見はかけがえのないものとなるでしょう。

カメラとレーザ発振の同期について

特定の信号を受け、そこから指定した時間を経過した後に信号を発振する装置(遅延信号発振装置)が、市販されています。当社では、VSD2000という製品が該当します。
この装置を利用して、カメラとレーザの同期が図られます。簡単な例として、次のような制御が行われます。

  • 通常動作のカメラ主導によるタイミング制御。露光開始信号を2回に1回だけ使用する。

カメラ主導ではなく、外部機器との同期を取りたい場合は、次のような制御が行われます。

  • 外部信号主導によるタイミング制御。カメラは基準信号を受けて 2フレーム だけ撮影し、それを繰り返す。

上図で、[パルス発生器]となっているものの実体は外部機器です。ここから発振される信号(基準信号)は、たとえば、エンジンサイクルにおける特定のタイミング(ex.上死点、下死点)であったり、クランク角1度ごとに発せられる信号などをイメージすれば、分かりやすいかもしれません。信号発振の時間間隔は、等間隔でも、不等間隔でも構いません。また、外部からの信号(基準信号)に対して、ここでは2枚のみ撮影していますが、必要に応じた枚数を撮影することができます。柔軟性・拡張性の高い制御方法です。

解析装置について

基本的にはパソコンと機器制御用ソフトウェア、および、解析用のソフトウェアです。カメラから画像を取り込むためのフレームグラバなどが必要となる場合もあります。
また、高速度カメラを用いる場合は、画像を大量に保存するための大容量外部記憶装置、高速処理を行うためのハイスペックな演算装置などが必要になります。
最近は、読み書きを高速に行えるソリッド・ステート・ドライブ(SSD)も普及してきました。このSSDは、OSドライブに使用されるのが一般的ですが、解析装置へ搭載する場合は、SSDを解析処理用のワークドライブとして使い、処理後に画像や計算結果をHDDへ保存する、といった使い分けを考えると良いと思います。

演算装置

移動量の推定処理で行われる相関計算は並列処理に適しています。そのため、多くの解析用アプリケーション・ソフトウェアが、マルチCPU・マルチスレッドによる並列計算に対応しています。ソフトウェアをより長く、快適に使用するために、できる限り高性能なものを推奨します。

Column GPGPUってどう?

最近は、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)に対応したグラフィック・ボードも普及してきました。高機能CPUよりも圧倒的に並列性が高く、しかも簡単に「後付け」できる点がよいと言えます。ただし、ソフトウェアがGPGPUに対応していなければ、計算処理にはまったく利用されませんので、高性能なグラフィック・ボードを装着したからといって、手持のソフトウェアでの処理が、たちどころに高速になる、というわけではありませんので、十分に注意してください。PIV解析処理の分野で、GPGPUでの演算処理が高機能CPUのそれに比べてどの程度有効かは、プログラムの組み方への依存性が高く、安易に評価することはできません。しかし、市販ソフトウェアの中には、GPGPUにいち早く対応しているものも販売しはじめています。ソフトウェアの開発効率などを考えると、今後は、CPU演算とGPGPU演算との棲み分けが進み、それぞれが適材適所で使われるようになってゆくものと推測します。

記憶装置

主に画像、そして計算結果を長期保存するためのハードディスク(HDD)を指します。画像1枚あたり1.5〜2MB程度を平均サイズとして、1計測あたりの枚数と実験頻度・期間から、おおよその必要量が計算できます。十分な量を確保しておくことをお勧めします。


[ 参考文献 ]

  • 「エンジンにおけるPIV計測と応用(横浜国立大学 西野耕一)」
  • 「PIVハンドブック(可視化情報学会)」(2005): 森北出版株式会社

[ 関連リンク ]

[ タグ ]
システム構成/撮影装置/照明装置/同期装置/Inter Framing Time(IFT)/フレームまたぎ照明/トレーサ粒子/光学機器/光シート/解析装置/PC/CPU/GPU/HDD/SSD


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