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更新日:2018/2/8

「照明位置ズレ」とは?

カメラ校正用の画像は、校正板をシート光の位置において撮影します。ところが、この両者を精度良く同じ位置に設置することは非常に困難です。この、光シートと校正板の位置のズレを『照明位置ズレ』と呼んでいます。

Columnズレているのは照明? それとも校正板?

用語について。「照明位置ズレ」とは、“照明(シート光)が校正板に合っていない”という意味ですが、実際の実験では、照明(シート光)の位置が先に決められ、そこに後から校正板を合わせることが多いと思います。その意味では「照明の位置ズレ」ではなく、「校正板の位置ズレ」とも表記できるはずです。そのように解釈したほうが理解しやすいかもしれません。いずれにせよ、この両者がズレている、と理解すれば十分です。

照明位置ズレの様子

まずは、『照明位置ズレ』がどのように確認できるか、その様子を示します。
このGIFアニメは実際に撮影された粒子画像です。2台のカメラでステレオ撮影された画像を、逆投影し、交互に表示しています。元々の画像をかなり拡大し、一部を切り抜きました。
2台のカメラは、シート光をはさんで左右に配置されています。
また、注目していただきたい場所に丸を描き込みました。

< 照明位置ズレ量=0.0mm の逆投影画像>

『照明位置ズレ』を含め、実験にまったく誤差を含まなければ、可視化された粒子像は左右の逆投影画像上で “同じ位置” に見えるはずです。それが、『逆投影』の原理です。ところが実際には数画素ほど差異があることが分かります。個々の粒子像によく注意して観ると、その差異の大きさがそれぞれ異なることも分かります(丸を付されていない部分もご覧ください)。ものによっては周辺とは逆向きに動いているように見えるものもあります。
カメラ校正の理論的には “厚みを持たない” ことを仮定する「シート光」ですが、実際には 1〜2mmほどの厚みを持たせて実験します。粒子が、その奥側にあるか、手前側にあるかで、1つの粒子の逆投影先が、2台のカメラで変わってきてしまうわけです。これが、『逆投影画像』の「実際」なのです。
さて、翻って画像全体を観ると、移動の方向にはなんとなく統一性があるように見えます。このように、“おおよそ決まった方向” へ投影されていることが分かる場合、それが『照明位置ズレ』に起因するもの、と予想することができます。

照明位置ズレ補正

このズレを最小限に留めよう、という処理をソフトウェア的に行うものを『照明位置ズレ補正』と呼んでいます。誤差量を反映することで、カメラパラメータの精度をさらに1ステップ引き上げます。
実際の処理は、それほど複雑ではありません。カメラパラメータを作る際に指定した、校正板画像の “奥行き方向z” の数値を「より正しいであろう」とされる値に修正するだけです。たとえば、現在のカメラパラメータが、奥行き方向z[mm]= -2.0、-1.0、0.0、+1.0、+2.0 として作成されているのであれば、これらをすべて +0.1[mm] オフセットします。
+0.1mm、+0.2mm、+0.3mm で再作成したカメラパラメータで逆投影した結果を示します。拡大・領域ともに、上のものと同じです。粒子像の投影先の変化に着目してください。

< 照明位置ズレ量=+0.1mm の逆投影画像>
< 照明位置ズレ量=+0.2mm の逆投影画像>
< 照明位置ズレ量=+0.3mm の逆投影画像>

いかがでしょうか。私には 照明位置ズレ量=+0.2[mm]の逆投影画像が、最も “画像全体としての移動量” が少ないように見えます。また、丸で囲んだ部分に見える3つの粒子像の位置が一致しています。別のズレ量の方が、または、何もしない方が適切に見える、という方もいると思います。判断は難しいです。
この3つの粒子像の位置が一致したということから言えることは『少なくともこの3つの粒子は同一平面上にある』ということだけです。この3つの粒子の位置を合わせることで、逆に大きく動いて見える粒子像もたくさん出てきます。それらは、この3点とは別の平面上にある(奥行き方向の位置が異なる)ということになります。シート光が厚みをもつことが、このような形となって現れてくるのです。
さらに、校正板がシート光に対して平行に設置されなかった場合、状況はより複雑になります。たとえば画像の右上と左下で “移動” の方向が異なる、ということになります。

Column照明位置ズレ量の物理的意味

照明位置ズレ量として指定した +0.1 などの物理的な意味も理解しておきましょう。
ここでオフセット量として与えた距離は、
『実験者が 奥行き方向z=ゼロ のつもりで撮影した画像を、z=0.1[mm]の位置にあるものとしてカメラパラメータを計算せよ』
という意味になります。他も同様に、z=+1.0 のつもりで撮影した画像を、z=+1.1[mm]の位置にあるものとして・・・です。
仮に、ここで指定したズレ量=+0.1[mm]が正しい値ならば、実験者は、奥行き方向z=ゼロ の位置に置くべき校正板を、シート光の位置に対して 0.1[mm]だけ手前に設置していた、ということになります。

照明位置ズレ量の推定

シート光が厚みを持つことにより、照明位置ズレ量を目視により判断することは非常に難しいです。しかし、厚みを持つシート光のなかに粒子が一様に分布することを仮定すれば、逆投影位置の違いを “傾向” として捉えることができます。つまり、先に述べた “おおよそ決まった方向” を知ることはできそうです。ISCCに実装されている方法を紹介します。 ズレ量を少しずつ変えながら、実際に逆投影画像を作成して “移動量” を調べます。これはちょうどPIVで粒子の移動先を推定するのと同じです。特定の領域内に計算格子を定義し、全体としてどの方向にどれだけ動いているかを計算します。

そこで得られる移動量は下に凸(凹型)の分布を示すことが予想され、その最小値を与える “ズレ量” が、求める “照明位置ズレ量” に最も近いであろう、と考えます。

このグラフから、校正板とシート光が平行に設置されたことを前提とする場合、つまり、単純に “奥行き方向z” の位置だけを修正するなら、z=+0.2 あたりが適切(であろう)と分かります。

また、校正板がシート光に対して平行に設置されなかった場合は、移動量を最小にする候補ズレ量は部分領域ごとに異なることになります。たとえば、画像の上の方は右側へ、下のほうは左側へ移動しているように見える、ということです。ISCCでは、移動量を最小にする3次元平面を最小二乗法により推定することで、そのような場合にも最適(と思われる)解を得られるようになっています。上の例では、ウィンドウに表示された平面が適切(であろう)、という結果が得られています。推定された平面の法線ベクトルと、通過点(x=0, y=0時のz座標)を示しています。

< 自動計算により推定された平面を適用した逆投影画像>

推定の不確かさ

ここまでの説明で、推定される “ズレ量” が簡単な推測に基づく処理で計算されていることが分かると思います。したがって、この方法により算出されたズレ量は、あくまでも目安と考え、最終的には実際に逆投影画像をよく観て判断する必要があります。


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ISCC/照明位置ズレ


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