さて、今回は一般の方には少しなじみの薄い「カメラ校正」についてです。校正の結果得られる「カメラパラメータ」の用途や種類について説明します。
実際に数値を計算するところはカメラ校正ソフト(ISCC)がやってくれます。
その数値化されたデータのことを、当該カメラの「
カメラパラメータ」とよび、それが保存されているファイルを「カメラパラメータファイル」と呼んでいます。
PIV解析では、次のような場面でカメラパラメータが使われます。
歪んだ画像を『歪みのない画像』へ変換します。カメラで撮影された画像は様々な要因で歪んでいます。レンズ歪みなど小さなものから、遮蔽物(水や透明アクリルなど)による光の屈折によるもの、ここでは、遠近法に基づく投影も歪みとして捉えます。つまり、1画素1辺に対する物理的な長さ(これを「スケーリングファクタ」と呼びます)が、関心領域の至るところで等しいとき、その画像を『歪みのない画像』とし、それ以外を歪んだ画像とします。通常の撮影で得られるすべての画像は歪んでいることになります。
カメラパラメータはその作成過程で、撮影された画像の画素に対して3次元物理座標を対応付けます。それにより、撮影されている物理空間の輝度分布が決まります。その物理空間を、ある平面領域で切り出し、その分布を画像として表現したものが『逆投影画像』です。
物理空間を『投影』したものが「画像」であるならば、「画像」を物理空間に投影することを『逆投影;Backprojection』と呼ぶわけです。
この方法によって得られる「逆投影画像」が、『歪みのない画像』であることが分かると思います。
また、切り出す平面領域(矩形)と、それをマッピングする画像サイズが指定されれば、逆投影画像が簡単に作成できることが判ります。各画素の輝度値は、逆投影された輝度分布から補間して決められます。
ある場所の3成分ベクトルを複数の方向から撮影した場合、1組の2成分ベクトルが得られます。これはベクトルのカメラへの投影です。
逆に、1組の2成分ベクトルと、各カメラのカメラパラメータがあれば、その場所の3成分ベクトルを計算することができます。これが『ステレオ再構築』です。
ただしこの時、最も大切なことは、再構築に使用される
ということです。当然のことなのですが、異なるカメラで撮影された画像から物理空間上の同じ位置を対応付けることは容易ではありません。
逆投影処理はこの点を一挙に解決します。
ステレオ再構築処理では、まず、撮影された原画像から逆投影画像を作成し、次にその逆投影画像に対して2成分速度分布を計算します。これらはすべてのカメラの画像に対して行い、最後にそれらを再構築し3成分速度分布を得ます。
逆投影画像は、切り出す平面領域と画像サイズ(縦横画素数)のみによって、その画素が表す物理空間上の位置が決まります。この原理を利用します。つまり、
ということです。これで上の大切な点を解決することができます。
ピンホールカメラによる伝統的な「幾何光学モデル」。これはカメラ校正ではもっともポピュラーな方法で、ロボットビジョンなどの分野でよく使われています。
基準点の見え方から、カメラの位置や視線方向、レンズ歪みなどが計算されます。まさにカメラに関する情報を持ちます。
パラメータの実体は、10数個というとても少ない数値だけなので、とても「軽い」情報です(演算機構は難しい)。ただし、このカメラモデルは、被写体とカメラの間に、レンズ以外の「モノ」があることを想定しません。したがって、曲がった透明アクリル越しにカメラ校正板を観るような場合、適正なパラメータを得ることはできません。計算自体が収束しないことが多くなります。要するに、このカメラモデルでは、そのような画像は補正できません。
そもそも画像の歪み補正を目的とするなら、補正するための関数を直接算出してしまえばよいではないか、という極めて単純な発想から生まれたものといってよいでしょう。
ISCCには単純な多項式で補正関数を導出する機能が搭載されています。このカメラパラメータは大変強力で、かなり強い歪みを持った画像も、高い精度で補正することができます。ただし、1点注意しなければならいことがあります。それは、『基準点がない範囲はグチャグチャになる』ということです。多項式で補正関数を近似しているため、データがある範囲は精度よく補正できますが、その領域を外れると極端におかしくなります。
一方「幾何光学モデル」では、原理的にそのようなことは起こりません。
2つのモデルの特徴をよく理解し、適用性を考えて選択する必要があります。
カメラパラメータが定義されている座標系です。本稿のここまでの説明では、「物理座標系」、「3次元物理空間」などと記されていたものがこれに相当します。
「物理座標系」という用語は、ユーザが欲しい、ユーザ自身が定義する、最終的な座標系を指すときに用いられます。両者は、結果的に同じものを指すことが多いこともあり、混同されやすいですが、本来は別物です。強く意識する必要はありませんが、頭の片隅に置いておくと理解の助けになることがあるかもしれません。
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